インボイス制度導入に向けて個人事業主がやっておくべき対応と影響をわかりやすく解説

更新日:/公開日:2022年10月11日

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インボイス制度導入に向けて個人事業主がやっておくべき対応と影響をわかりやすく解説

この記事の企画・編集者
溝口ひろき
つなぐマーケティング代表

2023年10月から「インボイス制度」が導入されます。

すでに政府公報をはじめ、さまざまなメディアで本制度の概要や問題点が紹介されています。

とくに気になるのは「インボイス制度が始まったら個人事業主にはどんな影響があるの?」「フリーランスは損をするの?」ということでしょう。

インボイス制度の内容をわかりやすく解説しながら、個人事業主への影響、制度が本格的に導入されるまでにやっておくべきことなどを解説していきます。

<インボイス制度を理解するために知っておくべき用語集>
用語概要
適格請求書(インボイス)✓登録番号や適用税率、消費税額等を記載した請求書のこと
✓役割は従来までの請求書と同じ、ただし「何にいくらの消費税がかかっているのか」を詳しく、明確に記載されている
✓税務署に「適格請求書発行事業者」として登録していないと発行できない
適格請求書発行事業者✓税務署に申請・登録し、適格請求書を発行することのできる事業者のこと
✓適格請求書発行事業者は、すべて消費税の課税事業者になる
仕入税額控除✓納付する消費税を算出する際に、売上の消費税額から仕入れの消費税額を差し引くこと
✓生産や流通の段階で二重・三重に消費税が累積することを防ぐのが目的
免税事業者✓課税売上が1,000万円以下の法人や個人事業主など、消費税の納税義務が免除されている事業者のこと
✓現在、免税事業者が消費者から支払いを受けている消費税には納税義務がないため、結果として事業者が消費税分の利益を得る「益税」が問題視されている
課税事業者✓消費税を納付する義務がある法人、個人事業主のこと
✓所得税の申告とは別に消費税の申告・納付が必要となる
この記事の監修者

溝口 ひろき

溝口 ひろき

フリーランスガイド責任者

1983年生まれ。電気工事士からWeb業界に転職して15年以上。現在はフリーランスでWebマーケターをしており、クライアントサイトのマーケティング代行や自社メディアの運用等をおこなっています。
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インボイス制度とは?インボイス制度をわかりやすく解説

インボイス制度とは、消費税の「仕入税額控除」の新しい方式の通称名です。

正式名称には「適格請求書等保存方式」といいます。

そもそも消費税とは、商品の購入やサービスの利用といった消費活動に対して課税されているようにみえますが、その実態は「事業によって得た金額に応じて、事業者に課税されるもの」です。

多くの消費者が「事業者に対して税金を支払い、事業者が消費者に代わって国に納めるもの」だと誤解していますが、事業者は国に納める消費税の負担を価格に上乗せしているだけで、消費者の代わりに納税しているのではありません。

店舗がある商品を仕入れて販売するとき、仕入れの段階で問屋などに消費税を支払いつつ、商品を販売したことでさらに消費税を納税するという、ひとつの商品に対して二重に消費税が課税される事態が生じます。

これが「二重課税(多重課税)」と呼ばれる問題です。

そこで、納付すべき消費税額を算出する際は売上の消費税額から仕入れの消費税額を差し引く「仕入税額控除」という制度が採用されています。

インボイス制度が始まると、仕入税額控除の適用を受ける際は「適格請求書(インボイス)」の交付を受けて保存し、適格請求書の交付を求められた適格請求書発行事業者(登録事業者)はインボイスを交付・写しを保管しなければなりません。

インボイスがないと仕入税額控除を受けられないので、買い手は消費税を全額負担するかたちになります。

インボイス制度を導入する背景と目的

インボイス制度が導入されることになった大きな要因は2019年10月の消費税改正です。

2019年10月1日に消費税率が8%から10%へと引き上げられましたが、飲食料品など一部の品目に限って8%の軽減税率が適用されています。

2つの税率が混在するため、取引ごとに税率・税額が明記されたインボイスを導入することで、経理上の事務負担の軽減やミス・不正を防止するという目的があります。

また、現行の制度では、消費税の納付義務がない免税事業者が消費者から支払いを受けた消費税をそのまま懐に入れることが許されている状態です。

この問題は「益税」と呼ばれており、かねてから課税事業者が不公平感を募らせていました。

インボイス制度には、免税事業者を取引から排除することで、益税問題を解消しつつ税収を増加させたいという狙いもあるのです。

インボイス制度の導入スケジュール

インボイス制度の本格導入は2023年10月1日です。

2024年3月に申告する消費税からはインボイス制度が適用されるので、従来どおりの申告が可能なのは2023年までということになります。

注意しておきたいのが「適格請求書発行事業者」としての登録期限です。

インボイス制度が開始される日から適格請求書発行事業者としてインボイスを発行できるようにするためには、2023年3月31日までに税務署への申請を済ませなければなりません。

また、2023年10月が到来しても、当面の間は経過措置が取られます。

インボイスを発行できない免税事業者からの仕入れでも、2026年10月1日までは80%、2029年10月1日までは50%の仕入れ税額控除が可能です。

インボイス制度導入によって変わることと個人事業主への影響

インボイス制度が導入されることで大きな影響を受けると予想されているのが、小規模の個人事業主です。

本制度には、会計の事務負担の軽減や益税の防止といったメリットがあるといわれていますが、これらは小規模の個人事業主に恩恵をもたらすものではありません。

2023年10月の本格導入後は、税務署に適格請求書発行事業者として申請・登録していないと、適格請求書を発行できなくなります。

適格請求書には税務署が発行した登録番号を記載しなければならないので、請求書に品目別の税率・税額を記載していても「適格請求書ではない」という理屈です。

適格請求書の見本と変更点

仕入税額控除を受けるための証拠として、買い手は売り手から発行された請求書を保存しておかなければなりません。

複数の消費税率が混在するよりも前となる2019年9月までは「請求書保存方式」という制度が採用されていました。

この制度は、請求書の発行者と請求書の受領者の情報に加えて、取引の年月日・内容・金額を記載しておけば足りるというものです。

2019年10月に消費税が引き上げられ、10%を基本としつつ8%の軽減税率も混在することになった段階からは「区分記載請求書等保存方式」に切り替えられました。

従来の請求書の内容に加えて、軽減税率の対象品目を明示したうえで「10%対象の税込み価格」と「8%対象の税込み価格」といったかたちで税率ごとの内訳を記載していなければ、仕入税額控除を受けられない仕組みです。

ただし、従来の区分記載請求書等保存方式では、税率ごとの「消費税額」が明確ではありませんでした。

インボイス制度が導入されると、従来の区分記載請求書等保存方式に加えて、さらに次の2点の記載が必要となります。

  • 税率ごとに区分した消費税額
  • 請求書発行者の適格請求書発行事業者の登録番号

適格請求書等保存方式

引用元:マネーフォワード クラウド

適格請求書発行事業者でなくても各取引の税率ごとの消費税額を丁寧に記載することは可能ですが、登録番号の記載がなければ「インボイスではない」と判断されてしまいます。

自身が課税事業者だった場合の影響

  • 取引先も課税事業者だった場合、影響はない
  • 取引先が免税事業者だった場合、納税額が増える

すでに自身が課税売上1,000万円を超える課税事業者である場合、インボイス制度の導入によって注目しなければならないのは「取引先が課税業者か、免税事業者か」という点になります。

取引先が課税事業者であれば、取引先に対して「インボイスを発行してほしい」と求めることで、これまでどおり100%の仕入税額控除が受けられます。

売上による消費税から仕入れにかかった消費税を差し引くので、二重課税は起きません。

ところが、取引先が免税事業者だった場合は、インボイスが発行されないことになります。

仕入税額控除を受けられないので、売上によって生じた消費税を全額負担しなければならない事態になり、納税額が増えてしまうのです。

場合によっては、取引先に適格請求書発行事業者としての申請・登録を求めたり、取引先を見直したりといった対応が必要になるでしょう。

もちろん、他社から「インボイスを発行してほしい」と求められれば、要件を満たしたインボイスを発行しなければなりません。

とはいえ、課税事業者であればわざわざインボイスと旧要件の請求書を使い分ける必要もないので「今後、請求書はすべてインボイスとして発行する」というかたちになっていくでしょう。

自身が免税事業者だった場合の影響

  • 今まで支払ってもらえていた消費税分を減額要求される可能性がある
  • 取引を停止される可能性もある

自身が免税事業者であれば、インボイス制度の導入による影響は甚大になるものと予想されます。

免税事業者はインボイスを発行できないので、取引先は仕入額控除を受けられません。

すると、これまでは消費税分の支払いを受けていたのに「仕入額控除を受けられないから、消費税分を減額してほしい」という要求を受けるおそれがあります。

税負担を抑えたいと考える取引先から、単価の引き下げ交渉を受けたり、受注数を削減されたりすれば、売上は大幅に減ってしまうでしょう。

また、取引先が「今後の請求書は適格請求書発行事業者によるインボイスのみとする」という意向を示した場合は、インボイスを発行できないことで取引停止を受ける可能性もあります。

これらのリスクは、税務署に適格請求書発行事業者として申請・登録することで解消されます。

ただし、適格請求書発行事業者として登録されると消費税の課税事業者になるので、これまでは免除されていた消費税の納税義務が生じるので、いずれにしても減収は避けられません。

インボイス制度導入までに個人事業主(免税事業者)がやっておくべきこと

現在、課税売上が1,000万円以下の免税事業者として稼働している個人事業主にとって、インボイス制度は「納税か、売上減少か」という非情の二択を迫るものだといえます。

野党を中心として、各業界団体が「インボイス制度に反対!」といった声を挙げていますが、政府が制度の中止・見直しを図る可能性は低いでしょう。

適格請求書発行事業者としての申請・登録は任意なので、慌てて申請する必要はありませんが、いざ本格導入されたという段階で困らないために、確認や準備を進めておいたほうが安全です。

取引先(課税事業者)の対応について確認する

インボイス制度の概要を詳しく知れば、個人事業主の多くは「値下げを要求されるかもしれない」「取引停止になったら死活問題だ」と焦りを感じるはずです。

しかし、課税事業者である取引先がかならず値下げや取引停止を申し入れてくるとは限りません。

取引を維持したいという良好な関係があれば、従来どおりの取引を維持できたり、値下げ幅についての折衷案の提示を受けたりして、減収を抑えられる可能性もあります。

本格導入のタイミングでインボイスを発行するための申請期限は2023年3月31日なので、期限までは取引先の対応を確認しつつ、メリット・デメリットを天秤にかけて熟考しましょう。

収入が減ったときのために支出を見直す

インボイス制度が導入されることで、多くの個人事業主に減収が生じる事態になると予想されています。

収入が減っても経営を安定させるためには支出の見直しが必須です。

無駄な支出はないか、費用対効果が低い業務はないか、財務状況を洗い直して減収に備えておきましょう。

利用可能な補助金・助成金の制度はないか、新規事業での増収は期待できないかといった収入面での増強もあわせて考えたほうがいいかもしれません。

消費税の課税事業者になることを検討する

インボイス制度の導入によって「課税事業者としてこれまでどおりの取引を維持する」という事業者と「免税事業者のままで値引きや取引先の見直しも甘んじて受け入れる」という事業者の二分化が起きることも考えられます。

課税事業者の立場からみれば「免税事業者との取引は損だから、インボイスを発行できる課税事業者との取引を重視したい」と考えるのは当然です。

こちらが適格請求書発行事業者としてインボイスを発行できる立場になれば、取引先からの評価が高まり、これまで以上の発注を受けられるかもしれません。

場合によっては、税負担は増えたとしても増収できる可能性もあります。

取引先の意向を確認しつつ、メリット・デメリットを踏まえたうえで「課税事業者になったほうが得だ」と判断できれば、期限内に適格請求書発行事業者として申請できるように準備を進めておきましょう。

最後に

現時点でわかっている範囲の情報を整理する限りでは、インボイス制度は個人事業主にとってデメリットばかりが目立ちます。

消費税の納税か、取引先からの値引きや取引停止が招く減収か、どちらを選択しても手元に残るお金が少なくなる事態は確実でしょう。

しかし、数多の個人事業主のなかで「インボイスを発行できること」が強味としてはたらく可能性もあります。

現在、免税事業者である個人事業主の方は、現状を分析したうえで適格請求書発行事業者になるかどうかを慎重に選択しましょう。

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